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最高裁判所第三小法廷 昭和23年(れ)250号 判決 1948年6月01日

主文

原判決を破毀する。

本件を東京高等裁判所に差戻す。

理由

辯護人竹内金太郎及び同織田嘉七の上告趣意、辯護人竹内金太郎の上告趣意、並びに辯護人竹内金太郎の上告趣意(第二)は、添附別紙に記載の通りである。

辯護人竹内金太郎及び同織田嘉七の上告趣意第一點について。

本件記録を調べてみると、原審第一回公判期日(昭和二二年一〇月三一日)において被告人の辯護人宮沢増太郎が、被告人のため、證人として石田一造、山崎光次、栗原盛治、外三名の喚問を申請したところ原審裁判所は、内、石田一造及び栗原盛治の両名を訊問することと決定し、山崎光次外三名の證人の許否は留保した上、同日栗原盛治を訊問し次いで第三回公判期日(同年一二月一九日)に石田一造の訊問を行ったけれども山崎光次及びその他留保の證人はこれを却下するとの決定を言渡し、これらの證人は取調べをしないで結審したことが右各公判調書の記載によって明らかである。してみると、右山崎光次の供述を録取した書類又は同人が作成した始末書その他同人の供述録取書類に代るべき書類は、刑訴應急措置法第一二條第一項本文の規定により、同項但書に規定せられる場合の外は、これを證據とすることができないものである。しかるに、右山崎光次を訊問する機會を被告人に與えることが不可能であるとか又は著しく困難であるとかいう事情は記録上認められない。にもかかわらず原審は、右のように、同人喚問の申請を却下しておきながら、その作成提出した始末書の記載を罪證の一部として採っていること所論のとおりである。かくの如きは既に當裁判所の判例にも示されているように、正しく刑訴應急措置法第一二條第一項に違反したものであって、論旨は理由があり、原判決はこの點において、破毀を免れない。

よってその他の上告論旨に對する判斷を省略し、刑事訴訟法第四四七條、第四四八條の二に從い、主文の通り判決する。

この判決は、裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 庄野理一 裁判官 島 保 裁判官 河村又介)

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